神奈川の教科書問題を考える


公正な教科書採択を求める県民の会

「日の丸・君が代」の強制に反対し、学校に「思想・良心の自由」を実現する会

大和田 章雄 


実教出版高校日本史教科書採択排除の経緯

 

 高校での教科書問題には2013年から関わってきた。

 この問題が発生したのは2013年7月の教科書採択の際である。神奈川県教育委員会事務局が、実教出版の『高校日本史A』『高校日本史B』教科書の側注で、国旗・国歌について「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」と記した部分が、県教委の指導方針と「相容れない」として問題視し、学校側に「再考」を求めることを決定した。翌日これらの教科書を選定した28校の校長に対し、希望教科書の「再考」を求めた。その際、「公開の教育委員会で不採択になる可能性もあり、学校名が公になって混乱を招く。場合によっては街宣車がくる可能性がある。」という発言があった。各校校長はこの要求どおり教科書採択に関わる現場教師に圧力をかけ、「変更」が行われた。


 2014年には副校長及び教頭対象の教育課程説明会で、高校教育指導課長から「採択についてよく注意するよう」伝え、更に「日本史の教科書については、実教出版の『高校日本史A』、『高校日本史B』は不採択にする、再考にならないよう候補にも載せないでもらいたい」と指示した。一連の経緯については「こころの自由裁判」の仲間と対県交渉を行い明らかにしてきた。前年に不採択理由として挙げられた「混乱を避けるため」に関連する「右翼街宣車云々」の発言の有無は、残念ながらあいまいなままである。

 

 2015年は、県教委事務局による校長対象の教育課程説明会においてのみ、昨年度及び一昨年度の教科書選定希望における「再考」の経緯についての説明があったという。追浜高校定時制では、「教科書選定委員会」で実教出版の『高校日本史A』が選ばれていることを知った校長に、社会科教員3名が呼び出されて変更が求められた。県の該当教科書不採択方針は変わっていない筈だからということであった。



県教委の教科書採択介入に対抗する取り組み

 

 2015年7月9日の県教委会議で、高嶋伸欣さんが「『高校日本史』教科書採択に関わる要請署名(請願)」について意見陳述を行い、継続審議となった。しかし、まともな議論にはなっていない。

 7月14日の県教委事務局との交渉では、不当な事実を隠すため、6月1日付け人事異動を契機に、次の担当者に問題点の引き継ぎを敢えて行わず、その介入の事実をあいまいにしていたことが明らかになった。

 7月21日の県教委臨時会では、前の要請署名(請願)が不採択となり、岡本清弘さんが「特定の教科書を排除しない公正な教科書採択を求める請願」について意見陳述を行い、継続審議となった。岡本さんは陳述において質問を連発する方法を採ったが、県教委は一切答えない、答えることができなかった。

 8月4日の県教委定例会では「担当教員の選定に基づく学校選定を尊重する公正な教科書選択を求める請願」について意見陳述を行った。しかし県教委は8月18日に、多くの市民・教職員による要請署名や請願等の意見を無視し、各学校の教科書選定における実教出版「高校日本史A・B」教科書を排除した上で、「採択決定」を強行した。


 県教委は神奈川県での二つの「日の丸・君が代」に関わる裁判の判決を根拠に、教委の指導方針が実教出版の側注と「相容れない」としている。しかし、「こころの自由裁判」では職務命令や処分が出されていないので、原告の確認の利益がないと判断され、また、「君が代不起立個人情報保護裁判」では国歌斉唱時の不起立情報は不起立の理由を聞かないので思想信条情報に当たらないと判断したものに過ぎない。これらの判決から「一部の自治体で公務員の強制の動きがある」という事実を否定する判断は示されていない。安倍政権の安保法制における「砂川判決」利用と同じで、何も考えていない。


 一方国会では、4月22日の衆議院文部科学委員会において、畑野君枝議員による教員と教科書採択の関係についての質問に対して、下村博文文科大臣は「我が国におきまして、公立学校の教科書採択の権限は、その学校の所管する教育委員会に属しておりますが、実際の採択は、幅広い意見を反映するため、通常、教員や保護者をはじめとした調査員による調査研究を踏まえた上で行われているわけでございまして、教員の地位に関する勧告と何ら相反するものではないと考えます」と回答している。しかし神奈川県では、「採択方針」に「各高等学校は学校目標及び各教科の指導目標に基づいて教科書調査研究を充分行い、学校及び生徒の実情を考慮して採択する」とあるにもかかわらず、「教員や保護者をはじめとした調査員による調査研究」などはほとんど無視されている。東京・千葉なども同様である。

 

 文科省は各都道府県に対して、教科書採択の手続きや内容についての公開性・納得性を強く求める通知を出している。「2013年7月10日提出期限の各県立高校の地歴公民の選定希望教科書名の分かる教育委員会事務局メモ」を情報公開請求したところ、メモは破棄したため文書は存在しないとの回答があった。

 これに対する異議申し立ての結果、2015年2月18日、神奈川県情報公開審査会から答申がなされ、以下の「付言」が示された。「当審査会は、…本件対象文書が不存在であるとする実施機関の説明を認めたが、それ以上に本件対象文書の不存在が果たして適切なことかどうかまで判断する権限を有するものではない。…本件のように、事務局が再考を求めるような特殊な事案では、記録は重要であり、実施機関としては、文書は残さないという方向に現場が動くことを、できる限り避ける努力をすべきである。」県教委はこの「付言」を尊重すべきである。



子どもたちに歴史の真実を伝える教科書を

 

 「日の丸・君が代」問題では、神奈川県議会文教常任委員会で自民党県議が「不起立者を処分せよ」と怒鳴りつけたことがある。関東大震災における朝鮮人虐殺を記した副読本『わかるヨコハマ』の回収など、歴史認識の改ざんも自民党を中心に右翼勢力によって進められている。

 終戦直後の時代、岸信介がA級戦犯として巣鴨に収監されるが、郷里山口を離れる際、一髙時代の恩師杉敏介から自決を促す短歌が届いたという。岸はそれを拒否して「名にかえて このみいくさ(聖戦)の 正しさを 来世までも 語り残さむ」と応じた。安倍首相はこの祖父の思いを継承しているのであろう。


 それに対して、河野談話では、「われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという決意を改めて表明する」とある。

 いま、戦争法が強行成立して、憲法の真価が問われている。立憲主義・民主主義・平和主義を取り戻すために市民が共に立ち上がるときであろう。

 



(2015年10月17日の全国大会現地実行委員会における、大和田さんのお話を事務局でまとめました。)


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